こちらは、HBR On Strategy のエピソード “Rethink Your Pricing Strategies Amid Economic Uncertainty”(2025年5月28日配信)を整理した内容です。
本エピソードでは、価格戦略の専門家 Rafi Mohammed (ラフィ・モハメッド氏)氏が「経済が不確実な時期にこそ、価格戦略を再考すべき」という視点から、企業が取るべき姿勢や施策を紹介しています。以下、ポイントを整理します。
概要
- 経済の不確実性(景気後退・パンデミック・インフレなど)に直面する中、企業は「価格を下げて顧客をつなぎとめる」ことに走りがちですが、これは必ずしも正しい戦略ではないとMohammed氏は警告しています。
- 代わりに、「価格設定そのものを戦略的に見直す/そもそも価格戦略を構築していないならその機会と捉える」べきという議論が展開されています。
- この話は、2020年のコロナ禍を引き合いに出していますが、原理は「あらゆる経済的混乱期」に応用できるという点が強調されています。
主なテーマと論点
1. 値下げ=安易な解ではない
- 急激な価格引き下げは、短期的に顧客を維持できるかもしれませんが、長期的には「ブランド価値の低下」「価格に対する期待値の歪み」「収益性の毀損」を招く可能性があります。Mohammed氏は「危機や不況だからこそ、価格を安易に下げるのは誤りだ」と述べています。
- 価格設定を再考する際には「コスト+マージン」だけではなく、「顧客にとっての価値」「競合環境」「需要弾力性」「心理的な価格感度」を含めた視座が必要です。
2. 価格戦略を“戦略”として捉える
- 価格は「単なる数字」ではなく、企業の戦略・ブランド・市場ポジションを映す鏡と捉えるべきです。たとえば、価格を据え置くことで「このブランドは不況時も価値を維持する」と顧客に信号を送るケースも紹介されます。
- また、価格戦略を「流動的かつ調整可能な仕組み」として作ることが重要です。不確実性の中では「固定的な価格体系」がリスクになります。
3. 顧客セグメンテーション と価値強化を同時に
- 不確実な時期こそ、すべての顧客を同じように扱うのではなく、セグメントを明確化し、「価格を変えるべき顧客/据え置くべき顧客」「価値提供を上げて価格を維持すべき領域」を見直すべきです。
- さらに「価格を上げずに価値を高める(付加価値・サービス強化・パッケージ化など)」というアプローチも紹介されており、単純な値下げ競争からの脱却が示唆されています。
4. 長期視点+回復期を見据えた価格設計
- 経済が回復したとき、価格構造をどう戻すか/あるいはどう進化させるかを見定めておくことが大切です。危機期の対応が“その後”の企業ポジショニングを左右します。
- 価格戦略は “一回限りの変更” ではなく、「モニタリング → 調整 → 学習 →再設計」のサイクルとして設計すべきとされています。
まとめ:実践のためのチェックポイント
- 危機だからといって「まず価格を下げろ」ではなく、むしろ「価格をどう位置づけるか」「自社の価値をどう届けるか」を先に考える。
- 価格を動かすなら、それがブランド・顧客関係・収益構造に与える影響を理解した上で、小さくテスト・セグメント毎に戦略を作る。
- 値下げだけではなく、「価格据え置き/価格上昇/価値強化」の組み合わせで競争力を築く。
- 危機を “価格戦略を再構築する好機” と捉え、回復期まで見据えて設計する。
- 組織としては、価格に関する仮説を立て、データをモニタリングし、顧客反応を見ながら“学習する価格運用”を構築すること。
おすすめ書籍:価格に関する書籍
大学時代に菅野先生のマーケティング講義を受けておりました。
価格支配力というプライシングの戦略だけではなく、マーケティング戦略全体の説明があるところがこの書籍の良い点です。


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