この豊かな社会の指針を定期的に見直したいためメモしておきます。
宇沢さんはノーベル経済学賞に最も近かった経済学者と言われています。

宇沢さんが提唱した「社会的共通資本」とは、道路、水道、教育、医療など、社会全体で共有されるべき資本のことです。彼は、これらの資本を適切に管理・整備することが、持続可能な社会の実現に不可欠だと考えました。
なぜこの社会的共通資本を管理するべきなのか、その答えは「豊かな社会へ向けて必要な資本だから」です。では、ゆたかな社会とはなんでしょうか?その条件は?
ゆたかな社会とは何か?
すべての人々が、その先天的、後天的資質と能力とを充分に生かし、それぞれの持っている夢とアスピレーション(熱望」「願望」「大志」(※観省庵補足))が最大限に実現できるような仕事にたずさわり、その私的、社会貢献に相応しい所得を得て、幸福で、家庭的な家庭を営み、できるだけ多様な社会的接触をもち、文化的水準の高い一生をおくることができるような社会である(P2)
理想であり、こんな社会だったらいいなという文字がまとめらていますね。現実ではどうでしょうか?
理想と現状ではGAPがあるように感じます。
豊かな社会は次の基本的諸条件を満たす
1)美しい、豊かな自然環境が安定的、持続的に維持されている。
2)快適で、清潔な生活を営むことができるような住居と生活的、文化的環境が用意されている。
3)全ての子供達が、それぞれの持っている多様な資質と能力を伸ばし、調和のとれた社会的人間として成長し得る学校教育制度が用意されている。
4)疾病、障害にさいして、そのときどきにおける最高水準の医療サービスを受けることができる。
5)さまざまな希少資源が、以上の目的を達成するためにもっとも効率的、かつ衡平に配分されるような経済的、社会的制度が整備されている。(P2)
上記の諸条件なしに冒頭の豊かな社会は成り立ちません。今、それぞれの基本的条件が脅かされていると感じます。
ゆたかな社会を実現するための経済体制は?
・ゆたかな社会を実現するための経済体制は、どのような特質をもっているのか。また、どのようにすれば具現化できるか?
・この課題に対する回答として、
社会的共通資本を中心とした制度主義の考え方によって理想的な経済体制を特徴づけることができると
記載されています。
社会共通資本とは?
制度主義の考え方を具体的なかたちで表現したもの
一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。
社会的装置は、次の三つに分けて考えることができる。
「自然環境」: 大気,森林、河川、水、土壌
「社会的インフラストラクチャー」 :道路、交通機関、上下水道、電力ガス
「制度資本」: 教育、医療、司法,金融制度
社会的共通資本が具体的にどのような構成要素からなり、どのようにして管理、運営されているか、どのような基準で利用され、サービスが分配されているかにより、一つの国ないし特定の地域の社会的、経済的構造が特徴づけられる。
そしてこの社会共通資本はどのように扱われるべきか?それを示しているのが下記です。
「社会的共通資本は決して国家統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として、市場的な条件によって左右されてはならない。社会的共通資本の各部門は、職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規範にしたがって管理・維持されなければならない」
国(官僚)ではなく、市場ではなく、職業的規範と専門的知見をもった職業専門家(プロフェッショナル)によって管理・維持されるべきとのこと。
制度主義とは?
・資本主義と社会主義を超えて、すべての人々の人間的尊厳が守られ、魂の自立が保たれ、市民的権利が最大限に享受できるような経済体制を実現しようとするもの
・制度主義を最初に提唱したのは、米国の経済学者ソースティン・ヴェブレン(1857-1929)
・ヴェブレンの制度主義の思想的根拠:米国の哲学者ジョン・デューイのリベラリズム※の思想
※本来のリベラリズム
本来リベラリズムとは、人間が人間らしく生き、魂の自立を守り、市民的な権利を十分に享受できるような世界をもとめて学問的営為なり、社会的、政治的な運動に携わるということを意味します。そのときいちばん大事なのが人間の心なのです。(宇沢弘文「人間の経済」)
書籍では、この他、農業、都市、医療、教育といった具体的テーマに即して社会的共通資本の考え方を明示しています。
現在の歪んだ市場制度、豊かな社会への道筋について考察を深めたい方におすすめの1冊です。
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