Daily Insight

自然保護は「守る」から「変革を共につくる」時代へ |観省庵 Daily Insight For NGO/NPO 2026年6月14日

2026.06.14
自然保護は「守る」から「変革を共につくる」時代へ |観省庵 Daily Insight For NGO/NPO 2026年6月14日

自然保護は「守る」から「変革を共につくる」時代へ

2026年6月14日、世界の自然保護分野では、生物多様性の損失を食い止めるための国際連携や地域主体の保全活動に関する動きが相次いでいます。本日のニュースから見えてくるのは、

「自然を守る」という発想から、「社会全体を変革しながら自然と共生する」という発想への転換です。

1. 世界生物多様性フォーラム2026が開幕

6月14日、スイス・ダボスで「World Biodiversity Forum 2026」が開幕しました。今年のテーマは

Leading Transformation Together(ともに変革を導く)

です。このフォーラムには研究者だけでなく、

  • 行政
  • 企業
  • NGO・NPO
  • 芸術家
  • 市民団体

など、多様な立場の人々が参加します。

世界生物多様性フォーラム(WBF2026)のリーダーシップと参加者

昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み(KM-GBF)は生物多様性の現状、保護、回復に関する報告を強化してきたものの、主要な実施上の課題が依然として残っていることに深く懸念を表明するとともに、多国間主義への攻撃や武力紛争の激化によって生物多様性損失の要因がさらに強まっていることに警鐘を鳴らす。

相互に深く結びついた危機が続くこの時代においても、国、地方組織、セクターを超えて生物多様性の損失と闘うために「共に変革を主導する」ための多くの機会が存在することを確認、このような危機は、社会、環境、地球の健康にとって持続不可能であると長年認識されてきた経済・社会モデルを再評価し、段階的に廃止し、より代表的な統治システム、新たなビジョン、そしてすべての人にとって持続可能な未来に向けた行動に置き換える機会となり得ることを強調する。

「共に変革を主導する」という決意と、KM-GBFを現実のものとする決意を再確認し、私たち一人ひとりと私たちの所属する組織に対し、2030年までに社会と生物多様性との関係を変革し、2050年までに自然との調和した生活に貢献する幅広い行動を通じて、コミットメントから実行へと移行するよう促す

The leadership and participants of the World Biodiversity Forum WBF2026

Are deeply concerned that, although the Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework (KM-GBF) has strengthened reporting on the status, protection and restoration of biodiversity, major implementation challenges persist, and express alarm that the drivers of biodiversity loss are being further intensified by attacks on multilateralism and the escalation of armed conflicts.

Affirm that, despite this time of deep interlinked crises, a multitude of opportunities exists for ‘Leading Transformation Together’ to combat biodiversity loss across nations, subnational organizations and sectors, and emphasize that such crises can provide an opportunity to reassess and phase out economic and social models long recognized as unsustainable for societies, the environment and planetary health, and to replace them with more representative governance systems, renewed visions, and actions towards a sustainable future for all.

Reaffirm their commitment to ‘Leading Transformation Together’ and to turning KM-GBF into lived reality, and urging each of us and our institutions to move from commitment to implementation through broad-based action that transforms our societies’ relationship with biodiversity by 2030 and contributes to living in harmony with nature by 2050.

生物多様性の損失を止めるためには、科学だけでなく、社会全体の協働が必要であるという考え方が背景にあります。特に2030年までに生物多様性の損失を反転させるという国際目標の達成に向け、どのような仕組みや連携が必要かが議論されています。

サイトに掲載されているRecommendations to all relevant parties(全ての関係者への提言)部分の日本語を引用します。

関係者全員への勧告

1. 生物多様性を支持し、自然の貢献を認める

あらゆる分野の関係者に対し、自然が人々と経済にもたらす恩恵、そして生物多様性の喪失がもたらす体系的なリスク(食料安全保障、健康、気候変動への耐性、社会の安定への影響を含む)を認識するよう強く促す。さらに、人類の幸福は自然に依存していることを認識しつつ、生物多様性の維持に不可欠な知識体系、価値観、管理慣行を持つ先住民族や地域社会の声に積極的に耳を傾け、そこから学ぶよう関係者に強く促し、奨励する。

生物多様性のためのリーダーシップとは、生物多様性が声を持たない場所で生物多様性を代弁し、あらゆるレベルで行動に責任を持つことであると強調し、政策改革、投資選択、管理慣行、個人の行動など、活動するあらゆる場所で生物多様性にプラスとなる行動を開始し、集団的な学習とイノベーションを加速するために得られた教訓をオープンに共有するよう関係者に促す。

2.生物多様性に富んだ未来のための多様なビジョンを共に創造する

あらゆる分野の関係者に対し、生物多様性の未来に関する多様で包括的かつ将来を見据えたビジョンを策定するために協力するよう奨励し、促すとともに、将来の生物多様性の結果は今日下される選択によって形作られることを認識し、強調する

このプロセスは、科学的なシナリオと予測に基づき、権利保有者と各分野の利害関係者間の対話に根ざし、多様な価値観、文化、世界観を尊重しつつ異なる能力、歴史的責任、そして環境的・社会的変化によって最も影響を受ける人々を優先する必要性を認識するものであるべきだと提言する。

共通のビジョンは、生物多様性の損失を食い止め、生態系を回復させながら人間の幸福を向上させる変革的な道筋の基盤となることを強調し、そのようなビジョンは、社会が支配的なパラダイムや従来型のビジネス手法を再検討し、バランスを取り戻す機会提供するものであることを再確認する。

3.望ましい未来に向けた変革を主導する

変革的な変化を実現するには、特に既に豊かな社会やセクターにおいて、現在支配的なパラダイムや従来型のビジネス手法を批判的に考察する必要があることを強調し、短期的な金銭的利益よりも自然を尊重することが、長期的な回復力、公平性、持続可能性にどのように貢献するかを示す新たなパラダイムを確立する必要性を強調する。世代間および種間の正義の必要性を再確認し、若者のエンパワーメントと、変革の最前線における自然の声の強化を図る。

変革は国際的・地域的な合意や国家レベルの行動だけに頼ることはできないことを強調し、特に現在の地政学的不安定な状況下では、都市、地域、先住民、企業、科学者、市民社会を含む地域および地方レベルの主体によるリーダーシップが、2050年までに世界の生物多様性目標を達成するために不可欠であることを強調するすべての主体、特に裕福な個人、企業、機関に対し、率先して模範を示し、生態系を保護、回復、連結する公平で地域に根ざした解決策を共同で創造するよう促し、陸と海の景観にまたがるネットワークが、国境や規模を超えて生物多様性を支える生態学的および社会的な「踏み石」として機能し得ることを認識する。

各国政府は、生物多様性の喪失につながる相互に関連する要因に対処し、共通の目標と解決策を特定し、あらゆるレベルの統治において政策の一貫性と多国間協力を強化する責任を社会と地球に対して負っていることを強調し、世界は分極化と武力紛争にますます多くの資源を費やす余裕はないことを認識すべきである。

WBFに集まったコミュニティは、KM-GBFの迅速な実施を支援するというコミットメントを改めて表明し、各国が国家生物多様性戦略および行動計画を、資金提供を受け、分野横断的で、国レベルおよび地方レベルでのモニタリングされた行動へと転換することを支援する意思を強調する。

付録:WBF 2026コミュニティが取り上げるトレンドと優先度の高いトピック

  1. 物語とストーリーテリング:環境に関する物語や芸術を通じた創造的な関わりは、人々の想像力を刺激し、人間と人間以外の自然とのつながりを再構築し、より望ましい未来像を描き、変革的な行動を促すための重要な原動力として探求されている。
  • 正義、価値観、そして多元主義:自然の価値評価において、多様性(本質的価値、道具的価値、関係的価値)を認識し、人間と自然の権利を包含することで環境正義を保全計画に統合する方向へと変化が起こりつつある。これには、先​​住民族や地域社会、そして将来の世代における正義の格差への対処も含まれる。
  • ネクサス思考とシステムアプローチ:研究は、生物多様性、気候、食料、水、健康の相互関連性を考察するネクサス思考へと、分野横断的なアプローチから脱却しつつあります。このようなシステムアプローチは、対話、協力、あらゆる関係者の参加、そしてより強力な多国間科学・政策・実践の連携を可能にします。
  • グローバル政策枠組みの実施:主要な目標の一つは、昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み(KM-GBF)の運用化です。これには、世界目標達成に向けた進捗状況を追跡するための標準化された指標の開発だけでなく、国レベルおよび地方レベルでの監視活動に対する各国への幅広い分野横断的な支援も含まれます。
  • 金融、経済、そして企業の責任:金融市場では、企業の評価に生物多様性リスクを反映させ、生物多様性のフットプリントや依存関係を測定し、企業が企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)といった新たな情報開示基準に準拠する傾向が顕著に見られます。これには、自然保護に資する投資商品、生物多様性クレジット、債務と自然保護の交換ネットワークの開発などが含まれます。
  • 生物多様性モニタリングの変革:研究者たちは、拡張性、自動化、多分類群モニタリングシステムを構築するために、環境DNA(eDNA)、高解像度リモートセンシング、クラウドソーシングによる生物多様性情報、そして人工知能をますます活用している。森林や鳥類群集などの生態系におけるデジタルツインの開発は、リアルタイムの意思決定のための強力なツールとして台頭しつつある。
  • 共創とリビングラボ:例えば、さまざまな知識タイプを活用して生物多様性を促進し、人間の幸福に貢献する(自然に基づいた)ソリューションを共創する学際的なプラットフォームとしてのリビングラボの活用は、科学と実践と社会の間のギャップを埋めるための重要な方法論である。

セクター間の関係性構築を目指すべき理由と方向が語られています。

2. 気候変動が絶滅危惧種へ直接的な影響を与える時代に

インドネシアのスマトラ島では、2025年の異常豪雨と土砂災害によって、世界で最も希少な大型類人猿であるタパヌリオランウータンの約7%が失われた可能性が報告されました。

調査によると、 2025年11月にインドネシアの北スマトラ州で4日間で1,000mm(39インチ)を超える雨が降った後、絶滅危惧種のタパヌリオランウータン(Pongo tapanuliensisの残存個体数800頭のうち58頭が死亡したとみられる。これは、同地域の個体数の11%、タパヌリオランウータン全体の7%に相当する

The research suggests 58 out of the remaining 800 critically endangered Tapanuli orangutans (Pongo tapanuliensis) were killed after more than 1,000mm (39in) of rain fell over four days in Indonesia’s North Sumatra province in November 2025. This equates to 11% of the local population and 7% of the entire species.

研究によると、

  • 4日間で1,000mmを超える降雨
  • 大規模な土砂崩れ
  • 生息地の約12%が被害

という深刻な状況が発生しています。これまで自然保護は開発や密猟との戦いが中心でした。しかし現在は、気候変動そのものが生物多様性を脅かす存在になっています。

昨年旭山動物園へ訪れたときに飼育員さんがオランウータンの現状を話してくれました。
先進国の経済発展の裏側で、新興国の自然環境が削られている現状です。その結果そこですむオランウータンの数も激減しています。私たちの生活にも多く使われているパーム油。

どんなものに使われているかご存知でしょうか。

代表的なものは次のような製品です。

食品
カップラーメン
スナック菓子
クッキー
チョコレート
アイスクリーム
マーガリン
冷凍食品
菓子パン

植物油脂とだけ表示されている場合、その一部がパーム油であることもあります。

日用品
石鹸
シャンプー
洗剤
化粧品
ハンドクリーム
口紅

泡立ちや品質の安定性を高めるために利用されています。

エネルギー
バイオディーゼル燃料

近年は再生可能エネルギーの文脈でも利用されています。

なぜこれほど使われるのでしょうか。

パーム油は、アブラヤシという植物から採れますが、他の油糧作物と比べて単位面積あたりの収量が非常に高いのです。

例えば、

大豆油
菜種油
ひまわり油

と比較すると、同じ量の油を生産するために必要な土地が圧倒的に少なく済みます。

そのため企業から見ると、

・安価
・大量生産できる
・常温で扱いやすい
・加工しやすい

というメリットがあります。一方で問題になっているのが、主にボルネオ島やスマトラ島などの熱帯雨林です。

森林を伐採してアブラヤシ農園を拡大すると、

オランウータン
ゾウ
トラ
サイ

などの生息地が失われます。特にボルネオオランウータンやスマトラオランウータンは、その象徴的な存在として知られています。

詳しくは、下記サイトもご覧ください。自分のたちの「便利」の裏で、なくなっているものにも目を向けましょう。

日本オランウータンリサーチセンター オランウータンの保全
↓↓

https://www.orangutan-research.jp/conservation.html

3. 生物多様性保全は「地域主導」が世界の潮流

近年の自然保護活動では、「保護区をつくって人を排除する」という手法から、「地域住民とともに自然を守る」という方向へ大きく変化しています。

世界各地で、

  • 湿地再生
  • 森林再生
  • 野生生物保護

を地域主体で進める取り組みが増えています。自然保護の成功には、生きものだけでなく、人々の暮らしや経済との両立が欠かせないと考えられるようになっています。

観省庵の視点

本日のニュースを通じて感じるのは、自然保護の対象が広がっているということです。

かつては、

  • 鳥を守る
  • 森を守る
  • 川を守る

ことが中心でした。

しかし今は、

  • 気候
  • 地域社会
  • 経済
  • 教育
  • 企業活動

まで含めた大きなシステムとして捉えられています。生物多様性の問題は、生きものだけの問題ではありません。人間社会のあり方そのものが問われています。自然保護とは、自然を守る活動であると同時に、人と自然の関係性を再設計する活動です。

今日の省察

私たちは問題そのものに目を向けがちです。鳥が減った。森が減った。川が汚れた。しかし、その背景には必ず構造があります。自然保護の世界では、「何を守るか」よりも、「なぜ失われるのか」を理解することが重要になっています。目に見える現象だけでなく、その背後にある関係性や仕組みに目を向けること。それが本質的な変化への第一歩なのかもしれません。

明日への問い

私は目の前の問題を解決しようとしているだろうか。それとも、その問題を生み出している構造を理解しようとしているだろうか。

自然保護も組織運営も、そして人生も。本当に向き合うべき対象は、目に見える現象ではなく、その背後にある関係性なのかもしれません。

参考文献


← Prev
NGO・NPO団体が活用できるテクノロジーツール支援プログラム|観省庵 Daily Insight For NGO/NPO 2026年6月13日
この記事を共有する
https://kanseian.earth/daily-insight/from-conservation-to-an-era-of-co-creating-change/