同じ赤字でも見る人が見れば、解釈は変わってきます。赤字が正当化されるケースとそうでないケースを考えてみましょう。自社が赤字の場合は、その赤字が正当化されるのか否か考えるきっかけになればと思います。またこの視点は、株式市場での価値評価にも直結してきますのでみなさんの銘柄選定の参考にもなると思います。
1. LTV・NPV視点で赤字が「正当化」されるケース
LTV(LifeTimeValue)とは?
LTV(顧客生涯価値)= 顧客が取引期間中にもたらす利益の総額
LTV > CAC(顧客獲得コスト)であれば、短期的な赤字でも投資回収の見込みがあるとされます。
※CACとは、一人のお客さんを獲得するのに必要なコスト
NPV(Net Present Value)とは?
NPV = 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計(投資金額を差し引いたもの)
NPV > 0 であれば、投資として「正しい」判断とされます。
LTV、NPVが高くなるための前提
- 顧客継続率が高い(チャーン(解約)率が低い)
- 追加購入・アップセルが見込める
- 将来の利益率が高まる仕組みがある
- スケールすればコストが逓減する(規模の経済)
- 特に固定費に対して利いてきます
- 規模が大きくなっても変動費は1つあたりに対して追加でかかってきます
有効なビジネスモデル例:
- サブスク型SaaS
- 今GAFAをはじめ株式市場で高い価値を得ているのがサブスク型のSaaSモデルです
- 企業開始初期フェーズ
- 例)Amazonの初期フェーズ(倉庫・物流整備による先行投資)
- 例)飲食店でアイスクリームの製造機を購入
- 例)シェアリングエコノミー初期
2. 黒字化できない(正当化できない)構造的なビジネスモデル・ケース
長期で見ても利益が出ない、あるいはLTV > CACにならない構造的な問題を抱えているモデルもあります。
限界利益率が低いモデルの問題点
限界利益率とは?
限界利益(売上 − 変動費)÷ 売上高
上記の式で現れます。
限界利益とは、商品やサービスを販売した際に直接得られる利益で売上と連動して増減するもの。
売上高から変動費を差しひくことで求めます。
限界利益率は、売上に対する、限界利益の割合です。
この比率が低いと、いくら売っても固定費を回収しきれない、あるいは広告費を回収できない構造になります。
基礎用語については下記が参考になります。

限界利益率が低いとどうなる?
- CAC(顧客獲得コスト)が高くつきやすい
- 投資回収に必要なLTVを達成できない
- 単価が低いためスケールしても利益が出にくい
典型例:
- 薄利多売のビジネスモデル
- 仲介マージンの低いプラットフォーム(かつ価格競争が激しい)
- O2O型サービスで継続率が低いもの(例:一回使って終わる美容系アプリなど)
薄利多売ビジネスモデルは消費者には良いのですが、運営する側はコスト高との戦いになりがちです。
地方のカフェなどは、利益度外視でやっているところが多く、回転率だけが高くなるとそこにいるスタッフは疲弊します。
3. 正当化されるモデルと黒字化困難なモデルの比較
特徴 | 正当化される赤字モデル | 黒字化困難なモデル |
---|---|---|
収益構造 | LTV > CAC、NPV > 0が見込める | LTV < CAC、NPV < 0が続く |
限界利益率 | 高め | 低め(もしくは赤字) |
顧客継続率 | 高い(粘着性あり) | 低い(1回きり) |
スケールメリット | 固定費の吸収が可能 | スケールしても利益が出ない |
代表例 | Amazon初期、SaaS、モバイルゲーム | 飲食系デリバリー、EC単発利用 |
4. なぜ同じ赤字でも混同されやすいのか?
- 「成長企業=赤字でも良い」というバズワード的理解
- 一時的な赤字か構造的な赤字かの見極めが困難
- VCや株主が“将来の夢”を買うケースも多い
- 定量的にLTVやCACが計測されていないケースも多い
- 計算で理論的に見えていないと、改善は難しいため可視化が重要です。
- 全てを可視化できるわけではないですが、議題としてあげ考えるベースとなります。
5. 解決のために必要な視点
- ユニットエコノミクス(1人あたりの採算性)の分析
- 限界利益率 × 継続率 = 投資回収可能性の指標
- PL構造の分解(固定費・変動費・CAC)
- LTVの前提が「妥当」かどうか(再購買率、課金継続率の実測)
結論
・単年度で赤字だからといって即NGではありませんが、「LTVが積み上がる構造があるか」「限界利益率が十分にあるか」は明確に分けて議論すべきです。
・限界利益率が低いモデルは、どれだけ顧客を獲得しても黒字化は難しく、LTVやNPVで正当化するのは錯覚であることが多いです。
・自分たちのビジネスの目的、ビジネスモデル、働き方を考え、ビジネス運営をすべきです。上記で解説した視点は、あくまでも経済的な価値だけを評価する視点です。近年はWell-beingの議論も行われています。幅広い視点で、主体的な目的をもって運営をおすすめします。
コメント