この記事はこんな人におすすめ
- 社内のデータ定義やKPIがバラバラで混乱している
- BIツール(Looker、Tableau、Power BIなど)を導入したが、指標が一致しない
- 「Semantic Layer」という言葉を聞いたことはあるが、イメージが湧かない
- dbt、Metric Layer、Headless BIといった最近のデータ基盤トレンドを整理したい
この記事を読むと変わること(Before / After)
| Before(読む前) | After(読んだ後) |
|---|---|
| 「Semantic Layer」という言葉を聞いたことはあるけど、正直よくわからない。 | 概念の意味と役割を体系的に理解できる。 |
| 部門ごとに指標定義が異なり、「どの数値が正しいのか」混乱している。 | 共通KPIや定義を統一するための設計思想がわかる。 |
| LookerやTableauなど、ツール間のデータ差異に悩まされている。 | Semantic Layerを使って、どのツールでも同じ結果を出せる仕組みをイメージできる。 |
| 「テクニカルな話」としてしか捉えられず、現場活用のイメージが湧かない。 | 意味(セマンティクス)を共有する“組織文化の仕組み”として捉えられる。 |
| dbtやHeadless BIなど、最近のトレンドが断片的で理解できない。 | 最新のデータ基盤トレンドをSemantic Layerの概念で整理できる。 |
この記事を読むと、「データの整合性に悩む現場」から、「意味でつながる組織」へと視点が変わります。
Semantic Layerとは?(定義)
Semantic Layer(セマンティックレイヤー)とは、データ分析において「ビジネス上の意味を統一的に定義する中間レイヤー」です。
Databricsのサイトに記載されている1定義は以下です。
セマンティックレイヤーは、現代のデータスタックにおける中間的な翻訳レイヤーとして機能し、生のデータをビジネスに意味のある情報に変換します。組織全体で統一されたビジネスビューを作成し、データがどこに存在し、どのように技術的に構造化されているかに関わらず、それを提供します。この抽象化により、データアナリストは複雑なクエリ言語や複雑なデータスキーマの理解に苦闘することなく、インサイトを生成することに集中できます。
キーワードは
・中間的な翻訳レイヤー
・生のデータをビジネスに意味のある情報に変換
・抽象化
です。
データベース(技術領域)とBIツール(ビジネス領域)の間に位置し、
SQLの構造を“意味的モデル”に変換して、誰もが同じ定義・指標で分析できるようにします。
例:
「売上」「顧客数」「解約率」などの定義が部署ごとに違う → Semantic Layerで統一。
文字だとイメージがわかないため下記dbtLabs記事2内の図解を引用します。
セマンティックレイヤーの本来の目的は、データを使用する様々なツールにメトリクスを提供することです。 つまり、セマンティックレイヤーは、色々なツールとうまく連携できる必要があります。
なんとなく下記図を参考にして中間レイヤーということがわかりますでしょうか。
そして中間レイヤーはエンドのアプリとそれぞれ繋がります。

Semantic Layerの3つの役割
| 役割 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| ① ビジネス定義の統一 | KPIやメトリクスの意味を共通化 | 「売上=税込金額」か「税抜金額」かを明確化 |
| ② データの抽象化 | SQLやテーブル構造をがわからなくても、指標名で呼び出せる | BIユーザーがSQLを書かずに利用可能 |
| ③ 再利用性の向上 | 同じ指標を複数ツールで使える | Looker・Tableau・Excelなどで整合性を保つ |
Semantic Layerの構成イメージ
IBMのセマンティックレイヤーについて記載された記事3の例を引用します。
大規模なデータベースを使用して、売上、顧客、製品、場所に関する情報を保存する小売業者を想像してください。生データは、sales_transactions、customer_info、product_catalog、store_locationsなどのさまざまなテーブルに保存される可能性があります。
セマンティック・レイヤーがない場合、レポートを作成するアナリストは、データベース・スキーマを理解し、さまざまなテーブルから必要なデータを抽出するためのSQL照会を作成し、データを変換、エクスポート、視覚化する必要があります。これは、時間がかかり、複雑なプロセスです。
イメージは下記です。生のデータ基盤に毎回毎回SQLを照会せずともSemanticLayerにあらかじめ定義・抽出してあれば、ビジネスレイヤーの方はセマンティックレイヤー層にアクセスしデータを扱えば低コストで目的達成が可能です。セマンティックレイヤーを用いない場合、さまざまなスキーマ情報を調査したり探すコストが高くなります。
また、あらかじめ組織的に定義(唯一の正しい定義(Single Source of Truth)しておくことで、それぞれが作業した時の指標の定義の揺れなどを最小にできデータ管理の視点からも秀逸です。
┌─────────────────────────────┐
│ BI / ダッシュボード層 (Looker, Tableau, Power BI) │
└───────────────▲────────────────────┘
│ 意味的なクエリ(Metrics定義)
┌───────────────┴────────────────────┐
│ Semantic Layer(意味の統一層) │
│ ├─ KPI・指標定義 (売上, 利益, ARPU) │
│ ├─ ビジネスロジック(期間, 顧客属性, 地域など) │
│ └─ アクセス制御・権限管理 │
└───────────────▲────────────────────┘
│ SQL変換・抽出
┌───────────────┴────────────────────┐
│ データ基盤層(BigQuery, Snowflake, Redshift) │
└─────────────────────────────┘
Semantic Layerのメリット
| 観点 | 効果 |
|---|---|
| データの一貫性 | 「同じ指標なのに数値が違う」を防止 |
| 再利用性 | 同じメトリクスをAPI・BI・AIで使い回せる |
| スピード | SQL不要でビジネス部門が自律的に分析 |
| ガバナンス | 指標定義の変更・履歴を集中管理 |
| 拡張性 | 新ツール導入時も“意味”をそのまま流用できる |
Semantic Layerと関連技術の違い
| 用語 | 意味 | 違い |
|---|---|---|
| Metric Layer | KPI・メトリクス定義に特化した層 | Semantic Layerの一部 |
| dbt Semantic Layer | dbtによるメトリクス管理 | ETL後の意味付けに最適 |
| Headless BI | BI機能をAPIで提供 | ツールを超えて意味を共有 |
| LookML(Looker) | Looker独自のモデリング言語 | Semantic Layer実装の代表例 |
Semantic Layerは「概念」、Metric Layerは「機能」、LookMLは「実装」。
なぜ今、Semantic Layerが注目されているのか?
- データ民主化の加速
非エンジニアもデータを扱える環境づくりが急務。 - BIツールの分散化
複数ツール間のKPI不整合が大きな課題。 - AI分析との親和性
AIが“意味”を理解するための基盤となる。 - クラウドDWHの普及
BigQueryやSnowflakeでの統合が容易になった。
代表的なSemantic Layerの実装例
| プラットフォーム | 特徴 |
|---|---|
| Looker(LookML) | 最も成熟したSemantic Layer。KPI・権限を一元管理。 |
| dbt Semantic Layer | メトリクスを定義し、APIで他ツールへ共有。 |
| Cube.js | オープンソースのHeadless BIとして人気。 |
| AtScale / Transform | 大規模企業向け。AI連携も容易。 |
導入時の注意点
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 定義の合意形成 | 「売上」などの定義をチームで統一することが最優先。 |
| 技術×業務連携 | エンジニアと事業部門の橋渡しが不可欠。 |
| スモールスタート | 主要3〜5指標から導入する。 |
| 運用設計 | 定義変更ルール・レビュー体制を整備する。 |
観省庵的アップデート:Semantic Layer=「意味の共創構造」
観省庵の思想(観察→省察→活用)に照らすと、
Semantic Layerは単なる技術ではなく、組織知を結晶化する構造です。
| 観省庵の段階 | Semantic Layerに対応 | 内容 |
|---|---|---|
| 観察(Observe) | データ構造を理解 | どんな事実・指標が存在するかを観る |
| 省察(Reflect) | 意味付け・定義を議論 | なぜこの指標が重要かを問い直す |
| 活用(Act) | 共通言語をもとに行動 | データを組織の判断・行動に変える |
Semantic Layerは「データを共有知に変える仕組み」であり、
“考える組織”を支える思考の基盤でもあります。
まとめ:Semantic Layerとは
Semantic Layerとは、データの「意味」を統一し、組織の共通言語をつくる中間レイヤーであるSemantic Layerとは、“データを人間の言葉に翻訳する仕組み”。組織が同じ「意味」で語り、判断し、行動するための知的基盤である。
この知的基盤をもとに顧客理解の解像度、業務現状の解像度を高めて改善施策に活用することができます。
メリットは
- ビジネス定義の統一
- 分析の再利用性とガバナンス強化
- ツールを超えたデータ活用の基盤
参考文献・資料など
- https://www.databricks.com/jp/glossary/semantic-layer ↩︎
- https://www.getdbt.com/blog/semantic-layer-introduction ↩︎
- https://www.ibm.com/jp-ja/think/topics/semantic-layer ↩︎
さらに知識を深めるための参考資料
セマンティックレイヤー入門 わかりやすい日本語の解説資料です。
Tableau Semantics
Looker のセマンティック レイヤがビジネス インテリジェンス向けの信頼できる AI を実現する仕組み


コメント