NPO・NGOの広報活動では、SNSの投稿数、ホームページのアクセス数、寄付金額など、さまざまな指標が使われています。しかし、アクセス数が増えたからといって、社会課題への理解が深まったとは限りません。また、寄付が増えても、支援者が団体の活動にどの程度共感しているかまではわかりません。
そこで活用したいのが「コンセプトダイアグラム」です。
コンセプトダイアグラムは、デジタルマーケティングやアクセス解析の専門家である清水誠さんが2008年から提唱している、顧客の心理・態度の変化と、それを促す施策を可視化し、顧客理解と施策評価に繋げるフレームワークです。この手法は企業のマーケティングだけでなく、社会課題への理解や共感、寄付、ボランティア参加などを目指すNPO・NGOの広報戦略にも応用できます。ぜひ活用してみてください。
本記事では、清水さんの提唱するコンセプトダイアグラムの考え方を紹介しながら、NPO・NGOでの作り方、KPI設計、活用方法を解説します。
コンセプトダイアグラムとは?清水誠氏が提唱するフレームワーク
コンセプトダイアグラムとは?
コンセプトダイアグラムは、顧客の心理・態度の変化と、その変化を促す企業の施策を図解し、顧客理解と施策評価につなげるフレームワーク
清水さんの公式解説によると、この手法の原型は1990年代後半に米国のWebコンサルティング会社で使われていた図解手法にあります。清水さんは、その考え方を顧客理解、マーケティング、CRM、データによる事業評価に活用できるよう再構成し、2008年から「コンセプトダイアグラム」として提唱しています。
コンセプトダイアグラムで重要なのは心理・態度の変化
一般的なアクセス解析では、ページの閲覧、クリック、申し込みなど、ユーザーの行動を測定します。一方、コンセプトダイアグラムでは、その行動の背景にある心理や態度の変化を考えます。たとえば、自然保護団体のホームページを訪れた人がいたとします。その人は、自然環境に興味を持っただけかもしれません。地域の環境問題に危機感を抱いているのかもしれません。すでに保全活動への参加を考えている可能性もあります。
同じホームページへの訪問でも、心理状態は異なります。コンセプトダイアグラムでは、こうした違いを整理し、それぞれの人に必要な情報や体験を考えます。重要なのは、ユーザーが必ず決められた順番で行動するという前提を置かないことです。清水さんも、コンセプトダイアグラムを単純な一本道の行動フローではなく、顧客に関する仮説と施策、評価指標を結びつけ、検証していくための手法として説明しています。
顧客が企業の想定どおりに直線的に行動することを表す図ではありません。顧客についての仮説、チーム内の認識、企業が提供している施策、検証に使うデータを一枚につなぎ、何が分かっていて何が未検証なのかを明らかにします。参考:清水誠氏「コンセプトダイアグラムとは」
清水さんのサイトからの引用です。左上に顧客。右下にゴールを設定して、2軸を用意。
ユーザの態度変容に対して企業は何をすべきか?を整理できます。

メインの想定顧客を左上におき、右下のゴールへ気持ちよく進んでもらう。
これをチームで可視化できると、なぜその施策をやるのか?がかなり明確になります。
「今までその施策で寄付金があがるの?」「その広告で寄付額が増えるの?」
という最終ゴールしか見れない人になるのではなく、そこに到達するプロセスに影響を与える施策を自信をもって進めることができます。
NPO・NGOの広報活動にコンセプトダイアグラムが役立つ理由
NPO・NGOの活動では、寄付や会員登録だけが成果ではありません。社会課題を知ってもらうこと、問題を自分ごととして考えてもらうこと、活動に参加すること、そして自発的に行動し続けられるようになることも重要です。こうした変化を整理する際に、コンセプトダイアグラムが役立ちます。
1. 支援者との関係を可視化できる
NPOの広報では、SNSのフォロワーや寄付者を一括りに「支援者」として扱ってしまうことがあります。しかし、同じ支援者でも、団体への理解や関わり方は異なります。コンセプトダイアグラムを使えば、どのような心理状態の人がいて、どのような変化を目指しているのかを整理できます。
2. 広報施策の目的を明確にできる
SNS、ホームページ、ニュースレター、イベントなど、NPOにはさまざまな広報手段があります。しかし、それぞれの施策が誰にどのような変化を起こすためのものなのか、十分に整理されていない場合があります。コンセプトダイアグラムでは、施策を顧客状態の変化と結びつけます。その結果、施策の重複や不足を見つけやすくなります。
初めての方→いきなり寄付というようなコミュニケーション導線は容易しつつも、ブログで着地して団体をしって、興味をもらってまずはメルマガ登録という動きを想定した導線を整備する。寄付の人に再来訪してもらうための記事タイミングやメール配信、LINE配信時のコミュニケーションを意識するなどなど。
ユーザの細かい態度変容を意識できることとそれを企業視点でのどのようにコンテンツを用意したり計測するかを整理できるのがこのフレームワークの良さだと考えます。
3. アクセス数だけでは測れない成果を考えられる
たとえば、自然保護に関する記事が1,000回閲覧されたとしても、それだけで読者の理解が深まったとは判断できません。一方、読者へのアンケートやイベント参加後の意識調査を組み合わせれば、理解や意欲の変化を把握する手がかりになります。コンセプトダイアグラムは、こうした評価指標を設計する際にも活用できます。
コンセプトダイアグラムを構成する8つの要素
清水さんが2026年8月に更新した公式説明では、コンセプトダイアグラムの必須項目を8つに整理しています。
| 項目 | 内容 | NPO・NGOでの例 |
|---|---|---|
| 対象顧客 | 誰の変化を考えるか | 自然保護に関心はあるが活動経験がない人 |
| スタート | 初期の心理・態度 | 自然は好きだが、環境問題を身近に感じていない |
| ゴール | 持続的に実現したい状態 | 自然環境を守る行動が生活の一部になっている |
| 2つの心理軸 | 変化を捉える異なる心理的要因 | 課題への理解、自分にも行動できるという実感 |
| 顧客状態 | 途中の心理・態度 | 問題を知った、自分にもできそうだと感じた |
| 状態変化 | 心理・態度の移り変わり | 他人ごとだった問題を自分ごととして捉える |
| 施策 | 状態変化を促す働きかけ | 現地体験、活動報告、参加者との交流 |
| 評価指標 | 変化を検証する指標 | 課題理解度、参加意欲、再参加率 |
出典:コンセプトダイアグラム公式サイト「構成要素は何ですか?」
表の右列は、清水氏の定義をNPO・NGOに応用した独自の例です。特に注意したいのは、ゴールの設定です。「寄付金額を増やす」「会員登録を増やす」といった組織側の成果を、そのまま顧客のゴールにするのではありません。支援者自身にとって、どのような望ましい状態が実現するのかを考える必要があります。
ゴールを掲げる上で大事なことは下記インタビューでも語られており、私も激しく共感しています。
淡々としたジャーニーや地図ではなく、世の中をこう変えたい、こんな人にこう気付いてもらって、こんな意識を高めてもらって、最終的にこういう状態の人が世の中に増えれば社会も良くなるはずだ、という企業理念にまでさかのぼるのです。企業理念はふわっとしたスローガンになりがちなので、それを現場の業務にまで落とし込むためのツールだとも言えます。参考:私にとって分析とは、企業が顧客視点に立ち戻るためのヒントであり、武器である:アナリティクス賢者訪問 第6回 清水 誠さんに聞く
NPO・NGO団体で活動される皆様はこのビジョンがしっかりしているため、それをマーケティングの実務に
落とし込めるとさらなる活動の磨き上げができると思います。
次に具体的な作り方を解説します。
NPO・NGO向けコンセプトダイアグラムの作り方
ここでは、自然保護団体を例に、コンセプトダイアグラムの設計方法を紹介します。以下は観省庵が考案した架空の事例であり、特定団体の調査結果や実績ではありません。
STEP1:誰の変化を描くのか決める
最初に対象となる人を決めます。今回の例では、次のように設定します。
「自然環境に関心はあるものの、保全活動に参加した経験がない地域住民」
対象を明確にすることで、どのような情報や体験が必要なのかを考えやすくなります。
STEP2:実現したいゴールを決める
次に、対象者にとって望ましい状態を考えます。
今回のゴールは次のとおりです。
「地域の自然環境を守ることが、自分の暮らしの一部になっている」
これは「寄付する」「会員になる」といった単発の行動ではありません。自然環境を守ることに意味を感じ、自分なりの方法で継続的に関わっている状態を表しています。
STEP3:スタート地点を決める
スタートは、対象者の初期の心理・態度です。今回の例では、次のように設定します。
「自然は好きだけれど、地域の環境問題について深く考えたことがない」
この状態からゴールに至るまでに、どのような心理的な変化が必要なのかを考えます。
STEP4:2つの心理軸を決める
コンセプトダイアグラムでは、心理・態度の変化を2つの軸で整理します。
今回の例では、次の2軸を設定します。
- 横軸:地域の自然環境が抱える課題への理解
- 縦軸:自分にも自然を守る行動ができるという実感
横軸は、社会課題をどの程度理解しているかを表します。縦軸は、自分が行動することへの心理的なハードルがどの程度下がっているかを表します。
この2つを分けることで、課題を理解していても行動できない人と、行動したい気持ちはあるものの何をすればよいかわからない人を区別できます。
STEP5:途中の顧客状態を考える
スタートからゴールまでの間に、どのような心理状態があるのかを考えます。たとえば、次のような状態が想定できます。
| 顧客状態 | 心理・態度 |
|---|---|
| 地域の問題に気づいた | 身近な自然にも問題があると知った |
| 守る理由を理解した | 自然環境の保全が自分の暮らしにも関係すると感じた |
| 自分にもできそう | 専門知識がなくても関われると感じた |
| 参加する意味が見えた | 自分の行動が役立つと理解した |
| 行動への手応えを感じた | 自分の参加にも意味があったと感じた |
| 続ける価値を見いだした | これからも自然を守る活動に関わりたい |
これらは、単純に上から順番に進むステップではありません。課題への理解が先に深まる人もいれば、自然体験をきっかけに行動への意欲が先に高まる人もいます。清水さんの公式説明では、スタートとゴールの間に置く中間の顧客状態は、実務上5〜6個が推奨されています。
STEP6:状態変化を促す広報施策を考える
顧客状態を整理したら、次にその変化を促す施策を考えます。
| 目指す心理・態度の変化 | 施策例 |
|---|---|
| 地域の問題に気づく | SNSで身近な自然の現状を紹介 |
| 守る理由を理解する | 解説記事や調査報告を公開 |
| 自分にもできそうと感じる | 初心者向けの活動紹介 |
| 参加する意味が見える | 参加者の体験談を紹介 |
| 行動への手応えを感じる | 活動後に成果を共有 |
| 続ける価値を見いだす | 継続的な交流や活動報告 |
ここで重要なのは、施策を単に並べるのではなく、どの心理・態度の変化を促すための施策なのかを明確にすることです。
STEP7:評価指標を設計する
最後に、狙った変化が実際に起きているかを確認する指標を設定します。
| 心理・態度の変化 | 評価指標の例 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 問題への気づき | 地域の環境課題を認知している割合 | アンケート |
| 課題への理解 | 問題の原因を説明できる割合 | 理解度調査 |
| 行動への自信 | 自分にも参加できると感じる割合 | アンケート |
| 参加意欲の形成 | 活動への参加意向 | アンケート |
| 行動への手応え | 参加が役立ったと感じる割合 | 参加後調査 |
| 継続意欲の形成 | 継続参加意向・再参加率 | アンケート・参加記録 |
SNSのリーチ数やホームページの閲覧数は、施策がどれだけ届いたかを把握するために役立ちます。一方、心理・態度の変化を確かめるには、アンケートやインタビューなどを組み合わせることが重要です。
コンセプトダイアグラムとカスタマージャーニーマップの違い
コンセプトダイアグラムと似た手法として、カスタマージャーニーマップがあります。両者は対立するものではなく、整理したい軸によって使い分けることができます。下記は清水さんのサイトからの引用です。
| 観点 | コンセプトダイアグラム | カスタマージャーニーマップ |
|---|---|---|
| 主な整理軸 | 2つの心理的要因と、顧客の心理・態度変容 | 時間、利用段階、顧客接点など |
| 中心となる問い | どの顧客状態を、どのような働きかけで変えるか | 一連の体験で何が起き、どこをどう改善するか |
| 施策と評価 | 状態変化を促す施策を矢印に対応させ、変化を捉える指標を設計する | 各段階や接点に、改善施策、KPI、担当組織、関連業務などを配置できる |
| 現状と将来 | 企業と顧客の双方にとって望ましい状態変化を設計する | 現状の体験と望ましい将来の体験のどちらも描ける |
参考:コンセプトダイアグラムとカスタマージャーニーマップの違いは?
たとえば、コンセプトダイアグラムで「参加したいが不安を感じている」という顧客状態を定義したとします。その状態にある人が、ホームページでどのような情報を探し、申し込みフォームで何に迷っているのかを詳しく調べる際には、カスタマージャーニーマップが役立ちます。なお、清水さんも両者を単純に優劣で比較するのではなく、目的に応じて併用できる手法として説明しています。
コンセプトダイアグラムを広報KPIの改善につなげる
コンセプトダイアグラムを作成したら、実際のデータを使って仮説を検証します。たとえば、自然保護団体がSNSで環境問題を発信し、ホームページへの訪問者が増えたとします。
しかし、イベント参加者が増えていない場合、どこに課題があるのでしょうか。
考えられる仮説には、次のようなものがあります。
- 環境問題への理解は深まったが、参加する必要性を感じていない
- 活動に参加したいが、自分にできるか不安を感じている
- 参加意欲はあるが、開催日時や場所が合わない
- 参加方法がわかりにくい
このうち、心理的な問題と、参加条件や申し込み導線の問題は分けて考える必要があります。コンセプトダイアグラムでは心理・態度の変化に着目し、GA4などのアクセス解析やアンケートを組み合わせて、仮説を検証します。重要なのは、図を一度作って終わりにしないことです。実際の支援者の声やデータをもとに、顧客状態や施策、評価指標を見直していきます。
NPO・NGOの広報戦略では、支援者の変化を起点に考えよう
NPO・NGOの広報活動では、発信する情報や利用する媒体に注目しがちです。しかし、広報の目的を考えるときには、まず「誰に、どのような変化が起きてほしいのか」を明確にすることが重要です。コンセプトダイアグラムは、その変化を整理し、施策や評価指標と結びつけるための手法です。
特にNPO・NGOでは、寄付や会員登録といった組織側の成果だけでなく、社会課題への理解、自発的な参加、継続的な関わりなどを考える必要があります。大切なのは、広報によって人を動かすことだけではなく、一人ひとりが社会課題とどのような関係を築いていくのかを理解することです。コンセプトダイアグラムを活用することで、限られた人員や予算のなかでも、広報活動の目的と優先順位を整理しやすくなるでしょう。
NPO・NGOの広報戦略・KPI設計を支援しています
観省庵では、NPO・NGOや自然保護団体を対象に、広報戦略の整理、コンセプトダイアグラムを活用した課題の可視化、KPI設計、GA4による効果測定などを支援しています。清水さんは前職が開催したセミナーの講師にも来てくださったことがあります。当時一緒にTableauの案件(アシスタントでの参加)ができそうでしたが叶わずでした・・。
「広報活動の目的が曖昧になっている」「SNSやホームページを運用しているが成果を評価できない」「寄付や参加につながる仕組みを考えたい」といった課題があれば、まずは現状を整理するところからご相談ください。
参考文献
- 清水誠「コンセプトダイアグラムとは」『清水誠メモ』。2018年5月10日初出、2026年8月11日更新。
https://makoto-shimizu.com/news/what-is-concept-diagram/ - 清水誠「コンセプトダイアグラムの描き方」『清水誠メモ』。2018年4月25日初出、2026年8月11日更新。
https://makoto-shimizu.com/news/how-to-draw-concept-diagram/ - 清水誠「コンセプトダイアグラムの構成要素は何ですか?」『コンセプトダイアグラム公式サイト』。2026年8月11日。
https://concept-diagram.com/note/concept-diagram-elements/ - コンセプトダイアグラム公式サイト
https://concept-diagram.com/
※本記事における自然保護団体の事例、心理軸、顧客状態、施策およびKPIの具体例は、清水誠氏の提唱するフレームワークを参考に観省庵が独自に作成したものです。清水氏によるNPO・NGO向けの公式モデルではありません。
